南海トラフ 地震臨時情報　周知停滞に危機感「混乱を招くか、無視されるか」　平田評価検討会長

7/27(水) 9:55配信

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平田直氏

　気象庁の「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」の平田直会長（東京大名誉教授）が26日までに静岡新聞社の取材に応じ、同庁が発表する「南海トラフ地震臨時情報」の周知啓発や、具体的な防災対応が停滞している状況について「情報が出たら社会が混乱するか、全く無視される可能性がある」と危機感を示した。　平田会長は「検討状況に自治体間で差が出ている」と懸念する。臨時情報の枠組みでは大規模地震対策特別措置法（大震法）の警戒宣言とは違い、社会が一律に強い行動制限を強いられることはないが「自治体の対応をはじめ、あらかじめ計画を決めておくのは同じ」と説明。事前避難対象地域内における休校の必要性や企業活動をどう継続するのかなど「議論を深め、地域でコンセンサス（合意）を得ることが大事」と指摘した。　地震の発生可能性については「不確実性がある」とし、「だからこそいつ来てもおかしくないというリスクがある」と強調した。その上で「臨時情報が出ずに大地震が突然発生する場合も見据え、事前対策を進める必要がある」と、社会全体で幅広い視点から防災対応の議論を深めるよう求めた。　■一問一答　気象庁の「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」の平田直会長の主な一問一答は次の通り。　－南海トラフ臨時情報の周知や防災対応の検討が進んでいない現状をどう見ているか。　「現在の科学では地震発生の正確な予測はできないが、発生の可能性が普段より高まったとの判断はできる。不確実性はあるが、科学の知見を防災や人の命を守ることに生かしたい。臨時情報の枠組みでは一律に強い行動制限は求めていないが、情報が出された場合に自治体や企業などがあらかじめ対応を計画するのは同じ。検討状況に自治体間で差が出ている」　－不確実性があるとは。　「臨時情報のうち、対象地域で事前避難が必要となる『臨時情報（巨大地震警戒）』が出された場合、1週間以内に大規模地震が発生する確率は十数回に1回程度。『臨時情報（巨大地震注意）』が出された場合は数百回に1回程度となる。科学はその不確実性の幅を少しでも狭める努力をしなければならない。一方、不確実性があるということは、いつ来てもおかしくないというリスクがある。それを理解し、平時から突発地震を見据えて事前対策を進める必要がある」　－現状で臨時情報が出されたら社会はどうなると予想するか。　「社会が混乱するかあるいは完全に無視されるかもしれない。臨時情報はなるべく普段通りに生活や経済活動をすることを求める。普段の地震への備えをしていれば問題ないが、何もしなくていいということではない。この制度は一人一人の意識を向上させなければうまく機能しないだろう」　－防災対応の検討をどう進めればよいか。　「事前避難対象地域の指定を含めて、議論をして地域のコンセンサス（合意）を得ることが大事。指定状況も住民に分かりやすく伝える必要がある。住民が避難するかどうかを判断できる材料を行政が示すべきだ。現状では津波が来たら逃げられない地域にも、住宅や高齢者施設などがある。都市計画を考える上で、地震や津波に強いまちづくりをしていくのも行政の役割だろう。企業は事前避難対象地域に事業所がある場合にどう対応するのか、議論してほしい。個人ではハザードマップの確認や備蓄、事前避難先を考えておくなど基本的な対策をし、どう行動するのか訓練もしてもらいたい」　ひらた・なおし　気象庁の南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会長、政府地震調査委員長などを務める。2017年、中央防災会議の「南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応検討ワーキンググループ」の主査として、異常現象の評価や事前対応の在り方について議論した。東京都出身。67歳。　＜メモ＞南海トラフ地震臨時情報　南海トラフ沿いの想定震源域で大地震の可能性が高まった場合に気象庁が発表する。地震の規模に応じて4種類ある。想定震源域の片側でマグニチュード（M）8以上の地震が発生し、後発地震の可能性が高まった場合には「巨大地震警戒」が出される。事前避難対象地域では、1週間の事前避難が求められる。観測データに異常があった際、地震学者でつくる「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」が分析や評価を行う。